ジンさんは
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ジンさんは、俺の尻が大好きだ。
あの人は、俺に惚れているというけれど、本当は俺でなくて俺の尻に惚れているんじゃないかと思うくらい大好きだ。ベッドに入ると俺をうつ伏せに寝かせ、パジャマ下を尻の部分だけずり下げる。腰を抱えて俺の尻に顔を埋めて、舐めたり噛んだり頬すりしたり抓ったり。短いときで1時間。長い時では2時間以上もそうしている。そうしてそのまま眠ってしまうこともしばしばだ。
次の朝、ジンさんは実に幸せそうな顔で俺の尻を枕にして眠っており、俺の尻は涎でベタベタになっている。涎だけならまだ良い方で、あらぬモノをブッかけられて白くカピカピになっている事もある。俺が寝た後ジンさんが、眠っている俺の尻を眺めつつ一体何をやっているのか。問い詰めたいところだが、恐くて出来ない。

『俺の尻は座る時と排泄時に用いるもので、ジンさんの愛玩用ではありません』

一度、そういった意味合いの事をオブラートに包んでジンさんに告げたことがある。
‥‥‥‥正直、あんなジンさんは、俺はもう2度と見たくない。常に明るい希望と強い意志を宿す瞳がみるみる曇り、絶望と不安に恐れ慄く、憐れで悲しい者の瞳になった。あれほど悲しげなジンさんの顔は見た事がない。あの時、俺は悟ったんだ。
俺の尻は、俺のものであって、俺のものにあらず。

その想いをより強固にした事件は、カキン王国での調査中に起った。生活を共にしていたそれまでは違い、ジンさんに会えるのはせいぜい3、4ヶ月に一度。当然ジンさんが俺の尻に会えるのも3、4ヶ月に一度だ。 たまの逢瀬。また明日からは離れ離れという別れの夜は、彼は名残惜しそうに俺の尻に頬を寄せ「元気でいろよ」と呟いたものだ。
そしてあの日、森は朝から不穏な空気に包まれていた。動物達がしきりに警戒しあっている。密猟者の存在を感じた俺は、仲間を置いて一人森の奥深くへと進んだ。密猟者たちは複数で、どれもかなりの使い手だった。それ程の実力を持ちながら、なぜ卑劣な犯罪行為にのみ力を使うのか。俺は怒りを感じ、一人も逃すまいと戦闘を挑んだ。
敵は強く、分散して四方八方から俺を狙った。目の前の敵をいなすのに精一杯で、背後からの攻撃への対応が遅れた。念を込めた拳で殴りかかられ、寸での所で上体を傾けてかわし、勢い余った敵の腕がそのまま真っ直ぐに振り下ろされる。拳が捻った俺の腰を掠め、尻に触れた時だった。敵も。そして俺も。目を疑った。

尻に触れた敵の手が‥‥‥‥‥砕けた。

こいつは体に触れるだけでヤバい。勘違いした密猟者達は青ざめた顔で逃げ出したが、呆然と立ちすくんだ俺は追う事も出来なかった。

ジンさん‥‥‥俺に尻に、何したんですか‥‥。

つまり、俺が考えているよりずっと、ジンさんの俺の尻への愛情は深かったようだ。俺は日に何度、俺の尻を想うだろう。椅子に腰掛ける時、排泄の時、その存在に思いを馳せ、感謝する気持ちがあっただろうか。俺のものでいるより、ジンさんのものであった方が、俺の尻は幸せだ。俺の尻の幸せを願うなら、所有の権利をジンさんに譲るべきだろう。あんな立派な人に心から想われて、俺の尻は幸せだ。俺には俺の尻の幸せを阻む権利はない‥‥。
尊敬する師匠の想い人(?)がこの体にくっついている以上、俺は俺の尻を守る義務がある。その日から俺は、地面に腰を降ろすときはなるべく柔らかい草地を選び、固い岩に座るときはタオルなどを敷くように心がけた。仲間はそんな俺を憐れみの表情で見て、誕生日には穴開きムートンをプレゼントしてくれた。誤解も甚だしいとは思ったが、俺は俺が俺の尻を守る本当の理由を、仲間に告げる勇気はない。

end.                                       (050414)
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