ちょっとした夢、ちょっとした正夢
幸せな夢なら、なおさら
でも、どんな夢にも出たいだなんて思わない









Sleaping Cuty


 




午後の早い時刻。
最近、グリードアイランドと呼ばれるようになったその島で。
昼食を食べてから、少年はそこで眠り込んでいた。
春の優しい日射しが木漏れ日でゆらゆらと輝き。
淡いピンク色の花が、爽やかな風にキラキラと流れてゆく。
少年の細い腕に、花びらが一枚舞い落ちた。


サクサクと、足音が聞こえたが。
カイトは起きる気配はなかった。


はあ、という溜め息を吐き、青いターバンは困ったように笑った。
キョロキョロと周囲を見渡し、誰もいないか確認する。
そして、ジンはサクラの樹に寄りかかって、両脚を静かに伸ばし。
少年の隣に座った。


ジンはカイトが可愛くて仕方がなかった。

この島にいる昔馴染みには、隠そうとしているが。
バレてるんだろうな、と自嘲的に笑う。
ただの弟子なら、この島には連れてこない。
ただの弟子なら、こんなに隙だらけの格好で寝ているのを。
叩き起こさないわけがない。
こんな風に、起こさないよう極限に気を遣う事はない。


ジンはカイトに視線を落とした。
幸せそうな表情で、幾枚か、花びらを付けて。
キラキラと花びらが舞い落ちる木の下で。
ジンはさらりとカイトの髪を撫でた。

「――…ん…」

ジンは、カイトが動くと手を引っ込め、バンザイの形で固まった。
カイトは起きなかった。
ゆっくりと寝返りをうって、少し微笑む。
その後は再び安らかな寝息。
ジンの膝の上で。


ジンは、そのままバンザイでじっとしていた。
カイトの寝息が深くなって、ジンは溜め息を漏らし、ようやく手を下ろした。
息も止めていたのかも知れない。
膝枕。
やれやれ、この困った弟子は。
ゆっくりと、先程と同じように動く。
そっと、膝の上の頭を撫でた。


長いまつげが揺れ、瞼がぴく、と動いたが寝息はそのまま。
淡く青い空と、穏やかな時間。
金色の木漏れ日とピンクの花びら。
ジンは優しい眼差しを送って、カイトから視線をはずした。





「…………………どぅ―――ん……さん………」




ジンが凍り付いた。
カイトはもう一度寝返りをうつと、ジンに寄り添う。
「…ドゥーンさん……」
もう一度、はっきりと。
そして、安らかな寝息。
微笑みさえ浮かべて、カイトはジンの服の裾を掴んで眠っている。
凍り付いたままのジンは、頭の中でその言葉を反芻する。

ドゥーンさん?

別になんということはない。
しかし、ドゥーン?
『ジンさん』ではなくて?
いやちょっと待て、よくある事だ。
子どもをあやしていた父親。
しかし子どもの最初に口にした言葉が、『ママ』だったというような。
いやいやいや、待て待て。


ドゥーンさん?


微妙に潤んだ瞳で、カイトに目を落とす。
安らかな表情、寝息も深い。
そうだ、今の言葉は、何か違うものだったのかも知れない。
ジンはその明晰な頭脳で単語検索を行った。
例えば、『MOON SUN』。
このガキだったら、あり得る事だ。
他にもある。
トーンアームにドアチャイム、なんならトーテムポールでも構わない。

ドゥーンさん?

いやいやいや、あり得ない。
まったく、あり得ない。
オレならともかく、ドゥーンが夢に出て来るなんて。

しかも、こんな。


幸せそうな夢の中で。





ぐるぐると考え込み始めたジンの傍ら、カイトがカパッと目を開けた。
ジンと目が合う。
「ドゥーンさんは?」
開口一番、カイトがそう言う。
ショックを隠せないジンは、ざっくりと斬られたように、ふるふると震えた。
のそのそと起きるカイトに、ジンが明後日の方角を見て言う。


「……………ドゥーンが―――?何か……?」


目を擦りながら、カイトは大欠伸をした。
「――ん……。あの、ドゥーンさんが……えんぴつをいれてくれたんです」
まだ寝ぼけているのか、そう言いながら大きく伸びをする。
ジンはそれを聞きながら、敗北感に身を震わせた。
「…でも、ドゥーンさんがそれを……」
そこで、初めて目が醒めたように、カイトは音が鳴るほどぱちくりと瞬きをした。
きょろきょろと辺りを見回し、照れたように笑う。


「ヤベエ、ねぼけた……」


へらりと笑ったカイトは、ジンの隣に座り直して膝を抱えた。
「変な夢…」
ジンからカイトの表情は見えなかったが、恥ずかしがっているようだった。
「―――ドゥーンの……夢見たのか?」
ジンが平常心を装いつつ、尋ねる。
「ん」
それきり、カイトは黙ってもじもじと身体を動かしている。


「いい天気ですねえ」


天気の話はいいんだ、天気なんか。

ドゥーンが鉛筆を、どうしたって?



自分らしくない、と思いつつ、ジンはカイトに肩を押しつけてもう一度尋ねる。
「ドゥーンがどうした?言ってみろよ、笑ってやるから」
普段通りに振る舞うジンに、カイトは視線を彷徨わせながら答えた。



「いや、ただ……色鉛筆を鞄に入れてくれたんですよ」

色鉛筆?
それだけか?ホントにそれだけなのか?



ジンは尚もカイトを見つめた。
カイトはその視線に気が付き、苦笑いを浮かべ、ジンを見上げた。
「―――…ドゥーンさんに……言わないで下さいよ?」


「言わねえよ」
ジンが即答すると、カイトは恥ずかしそうに目を伏せた。
「――ドゥーンさんは……、鞄に色鉛筆を入れてくれたんだけど―――」
少しの沈黙の後、カイトはジンをそっと見上げた。






「………………たべちゃったんです」





吹き出しそうになるのを腹筋で我慢して、ジンは震える肩を隠すように空を見上げた。

「キミドリとピンクがおいしいんだって。色鉛筆」

「ぶはッ!」
ついにこらえ切れなくなって、ジンは盛大に吹き出した。



「そんなに笑うなよ、ジンさん」



「―――…クッ……ククッ―――ッ……悪ぃ…」



カイトは拗ねたように、ジンから離れて立ち上がった。
「悪かったって!!――……や、ドゥーンらしい夢だと思ってさ」
離れたカイトを呼びながら、ジンはカイトの腕を引っ張った。


そうか、そんな夢か。
安堵にも似た感情を押さえ切れずに、ジンは微笑んだ。
頭の中に、煙草の代わりにピンクの色鉛筆をくわえ、ポリポリと音を立てるドゥーン
が浮かんだ。
その音すら聞こえた気がした。


「まだ笑ってんじゃん」
完全に拗ねてしまったカイトに、ジンは真面目な表情を作って言った。
「……そういやさ、保護用の絶滅危惧種が届いたんだけど」
作戦は成功し、カイトはちらりとジンを見た。
「グリードアイランドで保護しようかって話になって、今、リストの部屋で会議中」
カイトは、ジンの目の前に立って期待に目を輝かせた。

「――確か……メイドパンダとかなんとか」

とどめの一言が聞いたらしく。
「ジンさん!何やってんだよ、早く行こう!!」
ジンの手を取って、カイトが待ちきれないようにぐいぐいと引いた。
微笑んで、ジンはカイトに手を引かれるまま、仲間達が待つ城へ。



良い夢だったのかな、微妙に。
あんな風に笑えたんなら。

でも、こんな夢なら。



「………出なくてよかった………」



ジンは小さく呟いた。




                                   
F i n





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<ユカさんよりコメント>
すいません…、何だかドゥーンさん出てきませんでした…。
微甘を目指しましたが、結局ただのジンカイです(あれ〜?)。
G.I.メンバーはどうなったんだよって、ハナシですよね。
ひゃくヒッツ、ありがとうございました!

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カイトさん、可愛い―――‥‥vvv
だってむにゃむにゃ寝言言ったり、何気にジンにスリスリして服の端を握ったり
起きて寝惚けて、「ヤベ、俺寝惚けちゃった‥‥(照)」って言っちゃうんですよvv
(ちょっと違うぞヲイ;)
かぅわいぃいぃ〜〜〜vvvv
んでジン。G.Iの仲間にカイトさん可愛がってるの内緒にしてたっていうの、激ツボでしたv
でも多分初めのウチだけで、すぐバレバレになってそうですw
起さないように気を使ったり、ささいな事でドゥーンに負けた気になって凹んだり、
お前さんも相当可愛いですよジンさんや!
カイトさんが寝言で他の男の名前を呼んでショックを隠しきれないジンも‥‥vv
てか、必死で自分を納得させるのに思わず(?)自分をパパ、ドゥーンさんをママに
例えちゃう”明晰な頭脳”に大爆笑!
カイトさんの無邪気な一言にざっくり斬られてふるふる震えるジンの画像が
頭グルグルしちゃってもう大変っvv あぁんこのジン、大好きだぁ‥‥vvv

ジンを奈落に突き落とした(笑)、ドゥーンさんのタバコ。
タバコを吸うドゥーンを見て、色鉛筆を食べる夢を見ちゃうカイトさん。
そうか、ピンクとキミドリが美味しいのかぁ‥‥w
あぁ、どうしてそういう夢になったのか、すっごい興味ある!!
ちょっぴり天然風味な思考回路な気がして、すごくカイトさんっぽい――!と
ニヒャニヒャしてしまいましたよ!
カイトさんにとってのドゥーンって、一体どんな人なんだろvvと、かなーり楽しい
妄想可能な夢ですよねvv

春の日差しの中で二人のノンビリとした(ジンの心中はあまりノンビリでは
なかったようですがw)何気ないやりとりにフニャフニャと萌えましたv
特にっ!「いい天気ですねえ」って‥‥!vv
や、話題そらすにしても‥‥ちょっとあの、カイトさん‥‥‥!!
すっご可愛すぎってか天然すぎってか萌えすぎってか‥‥vvv

最後の「メイドパンダ」のくだりのカイトさんも、とてもとても好きなのです。
ユカさん宅のカイトさんは普段なかなか素直になれなくて、でも動物や自然に
触れたとき本当に真っ直ぐに感情を表に出して子供みたいに目を輝かせて、ツラい過去の
描写と合わさりいつも胸にグッと迫ってくるのです。
カイトさんの優しさ、謙虚さ、いっぱいに表現されていて、ジンがカイトさんを大切にする理由の
一つがよく分かる。
こういうカイトさんだから自分も大好きになったんだなーと、いつも改めて気づく思いです。

ユカさん、幸せな小説をありがとうございました!

(050423)

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