「first step」

J.ミドリカワ







A型の男性:几帳面で慎重。責任感が強い。恋愛は熱しにくいがさめにくい、一度燃え上がると一途なタイプ。
O型の男性:豪快奔放。勝ち気でどこまでも自力本願。恋愛は情熱的で包容力があるが、独占欲に走ると問題あり。

〜某血液型占いより






<1 〜 side:A 〜>


 とにかく身体が茹で上がるんじゃないかという暑さ、いや熱さだった。
 鬱蒼とした木々の間から漏れ差し込んでくる光に目をやれば、 密度の濃い空気がこれ以上の水分は持ち切れませんというようにゆらゆらと揺れている。
 汗止めの為に額に巻いた布は早々にその役目を果たさなくなっていたが、布を絞る暇も与えられず カイトは視界に流れ込んでくる汗を腕で何度も拭いながら歩を進めていた。

 カイトの数歩前を進む男は「あちぃ、あちぃ」と口だけはやかましく、 しかし時折背後を見遣る時の横顔はこめかみあたりがわずかに光って見える程度で、下生えの薮が続く道無き道を軽々と進んで行く。
 それはカイトにとっては後を追う事のできるギリギリのスピードで、つい先刻のハントでの貴重な経験について考察したくともその余裕はまるでなく、 ただただその時目の当たりにした滅多に見られない我が師匠の真剣な表情ばかりが頭の中をグルグルと回り続けていた。
 自分でもバカみたいだと思うのだがイッパイイッパイのカ ラダとアタマではコントロールが効かず、 ふとこのアタマの状態はジンとのセックスの時と似ているなんて考えてしまったら何だかたまらなくなった。 何だかたまらないまま湿った空気の中を溺れる人の気分で進む。

 このあたり特有の激しいスコールが色々なモノを洗い流してくれるまであと数分。







<2 〜 side:O 〜>


 ジンがカイトをハントに連れ出すのはもう数回目だったが、今日はちょっとしたハプニングがあった。 予測していたよりもかなり相手が大物だったのだ。 手こずるという程の事ではないが最初の段階ではカイトを加えてやる事のできる状況でもなく、 とりあえずジンだけで始めた戦闘はなかなかハイレベルなものとなった。

 久し振りの高揚感に心地良さを感じながら動く事暫く、 カイトがいつにない様子で自分を見ているのに気がついたのは闘いにある程度目処がついた頃だった。

 ・・・何だ?と引っ掛かったのはその時は一瞬で、「こっから先はお前も入れ!」とカイトに指示したあとは、 カイトの技術向上に効率が良いような戦闘にメイクする事に・・・これがなかなか面白い・・・いつの間にか夢中になっていた。

 しかし、帰路ともなればその引っ掛かった一瞬の出来事が妙に気になった。あの眼は以前にも見た事がある気がする。







<3 〜 a break 〜>


 スコールは短時間で森の空気を一変させた。雨粒が空中の水分をひっつかみ自らと一緒に地面に叩き付けたのではないかというふうに、 雨雲の去ったあとは済んだ空気が辺りに満ちている。

「陽が沈めばもっとマシになるだろ」
 ジンがそんな言わずもがなな事を口にするのは自分を気遣っての事だとカイトは知っている。 だから少し軽くなった足を必死に動かすと、程なく川のほとりの少し開けた場所でに出たところで前を行くジンの歩みが止まった。

「今日はここで泊りだな」
「はい」
倒れ込むように膝をつき、荒い呼吸を整えようと試みる。 野営の準備をしなくてはと思うのだが、ひとたび地につけてしまった手と膝はどうにも持ち上がらない。

「いいから休んでろ。しばらくは動けねーよ」
「でも・・・」
顔を上げようとしたその時、
「無理だって」
思わぬ声の近さに驚く間もなく身体がフワリと持ち上げられ、すぐに布の上に仰向けに降ろされた。 ジンの顔が至近距離でニヤリと笑う。

「イイコにしてろよ」

 バサッとタオルが顔に投げかけられる。持ち上げるのも億劫な腕をようやく動かしてタオルをはずした時にはジンの姿はすでに無く、 視界にはただ木々の間にアンバーの空が広がっていた。







<4 〜 side:O 〜>


 ジンは河原で釣り糸を垂れながら今日の行程を満足げに振り返っていた。

 バトルの展開といい、帰路のスピード配分といい、俺って師匠としても天才じゃねえ?
 そりゃハントのレベルの読み違いはあったけど、結果オーライだし。  そういや日没より前にここに着いたってのも予測よりかなり早かったな。 考えていたよりカイトのレベルが上がっているって事か。
 あいつ、ハッタリかましたりしないところはまあいいんだが、総じて押しが弱いっつーか、アピールが足りないっつーか、 ・・・気が付いたら結構成長してたりするんだよな。

 ああ、くそっ。やたらとヒットはするのに狙った魚はかからねえな。ここデカくて美味いのがいるはずなんだよな。 夜になると眠った魚を探すのは結構面倒なんだが。

 空は朱みを濃くし、中天では紺と混じわり不可思議な色彩を描いている。
 そういやあいつと初めて遭った時もこんな空だったな。

 そして唐突に思い出す。

 そうだ、あの時だ。ひどく気 が強そうなくせにやたらと静謐な眼をしたおかしなヤツがその瞳にそれまでと違う色を光らせ俺を見上げて言った。

「ついていっていいか」

 ジンに「ああ。来いよ」と言わせたあの眼が先刻のカイトの様子と重なる。
 自分のガキさえ捨てた俺が肯定の返事をした、その事の重大さを今頃自覚したってことか、とジンはわずかに自嘲する。
 変なの拾っちまったと思ったもんだったが、捕えられていたのは俺のほうか。







<5 〜 side:A 〜>


 カイトが目を覚ますと空は満天の星だった。

「これも計算違いか」
 ジンの声に慌てて起き上がる。
「もう少し寝てるかと思ったぜ」
「俺、どれくらい寝てました」
 四時間弱、という返事を聞きながら、カイトは自分の身体が驚く程軽くなり回復している事を確認した。

「ま、合格ってとこだな」
 ジンはちょうど焼き上がったらしい魚の串の一本をカイトに手渡すとそのまま隣に腰を降ろして別の一本を食べ始めた。
「・・・いただきます」
 一口食べると自分がひどく空腹であることに気付き、しばらく夢中で食べた。

 そよぐ風に木立がわずかにざわめき、森の生物たちの気配が時折する他はひどく静かな夜だった。

 心地の良い静寂はまもなく、そっち食わせろ、これもウマいですね、そうだろ、などのやり取りで破られたのち、ささやかな夕餉は終わったのだが、 いつも饒舌なジンが妙に口数が少なかった事を少しいぶかしく思いながら片づけの為立ち上がりかけたカイトは、突然 背後から抱きとめられた。 そのまま首筋に顔を埋められシャツの中に潜り込んだジンの手の動きに瞬時息が止まる。

「ジンさん、・・火少し落とした方が・・・」
「・・火なんか放っとけよ」
 耳元に囁かれて身が竦む。
 戸惑いを感じるのは野外だからというよりも、ジンとの数度の行為でお互いに素面だった事が無い為だが、ふと昼間走っていた時の熱が蘇り、 身体は今までよりも早く積極的な反応を返しはじめ、カイトはさっさとためらいを放棄する。
 目を閉じてジンの指や口唇が与える感覚に集中すれば、思考はすぐに単純に一色に染められていく。
 ほら、この感じだ。







<6 〜 A & O 〜>


「なあ、目、開けろよ」
 仰向けになっているカイトに被い被さる姿勢のジンが、カイトの胸の突起を嬲りながら言う。 強く摘まれ思わずあげそうになった声を噛み殺しながらカイトはジンの言葉に従おうとするが、 不意に下半身をぞわりと撫で上げられ背筋を走り抜けた快感に再び固く目を瞑る。
 遮断してしまった視覚の代わりに手探りでジンの腕に触れ、そのまま確かめるように肩のほうへと筋肉の起伏を辿る。しかしその手は、突然乱暴にはずされ、 カイトの顔の右と左の地面にジンの手によってそれぞれ縫いとめられた。
「・・・ジンさん?」
 突然の中断に、まだ焦点を定めるのが難しい目を上げると、ジンがいつになく読めない表情で見下ろしている。

「お前さ、ハントの最中俺を見てただろ」

 カイトの表情が変わり、言葉以上の意味でちゃんと伝わった事をジンに確信させる。

「・・・すみません」
「何だよ、それは」
 ジンが機嫌を損ねたように呟いた。
「別にあやまることじゃねー だろ。それに・・・」
 片手を離し、カイトの額にかかる髪をゆっくりかき上げて覗き込む。

「・・・俺は、ああいうお前はけっこう気に入ってる」

 その言葉に目を見開いて見返したカイトの視線をかわすように、ジンはカイトの背に腕を廻し身を寄せ抱き締めた。 そのまま額に唇を寄せられ、目元、こめかみへと移る度にそこから熱が広がっていくのを感じながら、カイトは受け入れられているという 安堵感よりももっと手に負えないようななにものかに急かされるように言葉を紡ぎだしていた。
「俺、・・・さっきジンさんの事ばかり考えていて、・・ジンさんの事しか・・っ、考えられなく・・て・・」

 再開された愛撫に息が上がり言葉にならないのがもどかしく、ジンの両肩を押し止めるように掴んで視線を合わせる。
「・・・でも、そういう自分も悪くない、そう思ったんです」

 何だか信じられない事だけれど。自分が他人にここまで魅かれるなんて。
 でも、ジンという存在に占有されているこの瞬間、自分は以前 よりずっと自由な気がする。

「悪くねえよ」
 ジンはカイトの視線を受け止めて答える。その熱をもっと俺に見せてくれ、俺だけに見せてくれと、これは声には出さずに。


 今まで何度か交わしたはずのキスは今は少し気恥ずかしく、もっと伝えるべき言葉を互いの唇に封じ込め、 それでもとてつもなく満たされて月並な幸福にしばし酔う。
 当たり前でいる事が難しい二人に、昇り始めたばかりの下弦の月が他のすべての恋人達と平等に涼やかな光を贈っていた。






end




<ミドリカワさんよりコメント>
 血液型、かんけーないじゃん!
 と、思って血液型関連のところはカットしようかと思ったのですが、とにかく書き出したきっかけは血液型ネタだったのでこのままにしておきます。
 本当は押しまくり独占欲丸出しO型っていうのになるはずだったのですが・・・おかしいなあ。




書き出しがニクい。状況描写がニクい(空気の重さが肌に感じるよう)。
視点の切り替えが(すっごい)イカしてる。
二人の性格設定がリアルすぎ。出会いの設定がドツボすぎっ!!
全くホントに何から触れてよいやら分かりませんよミドリカワさんっ‥!

血液型小説募集、ダメ元で日記で呟いてみましたが言ってみるもんですよvvv
血液型、関係なくないですから!お題小説の特性活かされまくってますから!!
視点の切り替えに使われるとは参りました。んで冒頭の注釈がすごく効いてる。
だってジンカイトそのまんまですよ!
「特にここがジンカイまんま!」とか書きたかったけど、注釈全文引用になっちゃうんで 止めときます。
んで表には出さないのに燃え上がって一途なカイトさんとか 自力で独占欲に走りまくってるジンとか萌えすぎちゃってたまりませんっ!!
イカしてる、ほんっとイカしてる‥‥!

前回の時もそうでしたが気温や湿度、空気の濃さ薄さ。なんでこんなに伝わってくるの??
二人の心情とシンクロしながらジクジク〜ッと伝わってくるわけです。
「密度の濃い〜ゆらゆらと〜」とか、「溺れる人の気分で進む」とか、あぁもぉどうしてこうかなぁっ!この胸にクゥゥゥゥッって来る感じっ!!
カイトさんのジンへの気持ちを持て余して たまらなくなってる気分がギュウゥッと染みこんできて、た、たまんねぇっ‥‥!
前屈みもいーとこですよ、コンチクショウッ!!ヽ(`Д´)ノ

や、スイマセン; でもほんとヤバいんです。萌えすぎで。
グダグダと例によって蛇足にもならない感想を書いてますが、一文一文に激萌えなんですよキリがない。
<4 〜 side:O 〜>のジンの独白とか、んっとにO!んっっとにジン!
自画自賛な呟きとか「自分のガキさえ〜事の重大さを〜」とか、もう‥‥もぅっ‥!!
かなりジンカイ出会いの謎が解けた気分なのです。
この小説で、「そうか、こういうことだったのかーっ!!」と真実を知りましたっ!
どうしてジンはカイトさんを拾ったのか、ずっとずっと謎だったけど、これが正解っ!って答えを 見つけた気分で、あぁ、ほんと嬉しい‥‥(泣)

そしてカイトさんはとても潔い。すごく一途なのに乙女じゃないの!これってスゴいことだと思う!
やや、私は乙女カイトも好物ですが、この小説のカイトさんは真っ直ぐさと真面目さと潔さと、 大人の男になりかけの、でもまだ少年の清々しさが匂い立つような修行中カイトの 真骨頂だと思うんですよ!男なの!でもまだ少年っぽさが十分残ってるのっ!!あぁもぅ大好きだーーーーっ!!!
はぅあぁぁ‥‥ほんとにどうして良いやら分からん‥‥!(どうもせんで良し。黙って萌えてろ)


んで(管理人の萌えレベルゲージが振り切れそうなのが)問題の微エロシーン。


‥‥‥ヽ(´ー`)ノ (←振り切れたらしい)


「悪くない」ですか。そうですか。悪くないですかvvv



‥っっとに素直じゃないんだからっ!vvvv


もー最初のセリフから一語一句全部萌えましたってっ!!
特に特にっ!ジンの「いつになく読めない表情」とかっ!
カイトさんの「受け入れられている〜もっと手に負えないような〜」とかっ!!
「占有」されている時に「自由」を感じるカイトさん。
分 か るっ ‥‥!!!
てか私がジンカイを考えるとき、もーラブラブすぎて下手するとすごく閉塞的になりがちで、 でも違うのっ!そうじゃないの!!
すでにお互いはお互いのものなんだけど拘束したり排他的になったりとかじゃなくって、 んーとんーーーーっと‥‥‥;;;と、モンモンモンモンしてたのがサラリですよっ!!
この感じなんですよーーーっ!!!はぁー‥‥はぁー‥‥!

えーと、興奮しすぎで色々日本語変ですが堪忍してください;
てか、全然感想書き足りないけど、今日はこの辺にしといてやるかっヽ(`Д´)ノ (ほんとスイマセン;)

とにかく何が言いたいかというと、「すっごく萌えたーっ!!」ということなのですっ!!
ミドリカワさん、素敵小説、本当にありがとうございましたっ‥!

(050402)
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