猫とあの人と自分  by RIKKA-sama


「俺、ちょっと出かけてくるわ」
「・・・・は?」

ひょいと片手を上げて告げられた言葉に、俺は小さく口を開けて呆けた。それに、ほれ、と気の抜けた声と一緒に、ジンさんは真っ白な子猫を俺に手渡す。

「ちょ、ちょっと、何考えてるんですかっ」
「特に何も?んじゃ、そいつ頼んだぞ、留守番もな」

良い子にしてろよー、と。俺と子猫、どっちに言っているのかさえ定かではない台詞を投げて、ジンさんはあっさりと家を出て行ってしまった。
何の目的なのかはおろか、いつ帰ってくるのかすらわからない。いつにもまして我侭な師匠の気まぐれに、俺はガックリと肩を落とした。
そんな俺の手の中には悪戯な目をした子猫が一匹。
引き取られた先でも悪戯三昧ですぐに送り返されてくるこいつは、今では立派にこの家の住人に成り下がっていた。俺の苦労に誰か同情してくれ、切実にそう思う。
この猫の名前を、ナガレ、という。異国の言葉で『流』と書くそれは、くるりとした青い目が水のようだと言ったジンさんの命名だ。

「大人しくしてろよ、ナガレ」
「にゃぁー!」

なんとも不安にさせる元気いっぱいの鳴き声に、頭が痛くなる。
それでもそのまま腕に抱えているわけにもいかず、ソファに置かれたクッションの上、という定位置にナガレを降ろした。クルリと大人しく丸くなるナガレに、(もちろん若干の不安は残るとして)一応は安心してから、俺はひょいと掃除道具を手に取った。
邪魔者(ジンさん)がいないうちに、あらかた部屋を掃除してしまおうということだ。放っておけば放っておくだけ汚くなる我が家は、こういう時に無理にでも掃除をしてしまわないと、埃が溜まる一方なのだから。
ナガレの気配に一応は注意しつつ、箒を手に取った。この前ぶちまけられたのは生ゴミの袋だった。同じ過ちだけは絶対に犯すまい。

ですがそう思っても、人は過ちを繰り返すわけで。

「・・・・・やられた・・・・・」

ボソリと低く低く呟く自分の目の先には、無残に爪でボロボロにされたベッドがある。
いくらすると思ってるんだ、そのマットレス・・・。
クラリと眩暈を起こした体を支えるために机に手を置けば、無邪気な白い固まりがカイトの目の中に映る。

「お前は・・・」
「ニャァv」

こういう時って、動物はずるい。自分の強みというものを、よく分かっていらっしゃるんだから。
上目遣いを体得した小憎らしい顔を見つめて、俺ははニッコリと笑ってみせる。
『ジンさんは誤魔化せても、俺は誤魔化されてやんねぇぞ?』
あえて音声に直すなら、その笑顔はそう言っていたのだろう。


「なんつー猫だ・・・」
「フビャァ!」

ジタバタと暴れる子猫を腕の中に閉じ込めて、俺は大きく溜息をついた。
動物の基本能力とはたいへんなもので、未だ修行中の身で捕まえるのは一苦労。だからといって自分の能力がこの子猫に劣っているというわけではなくて(そう信じたい)、ただ単に自分の力加減があまり上手ではないだけなのだろうが。
バリバリと爪を立てられる我が身を嘆きつつ、きっちりとその身を拘束する。今度の掃除のときはジンさんに外に連れ出してもらおうと、固く決意した。

「あぁもう、いい加減爪を立てるのをやめろっ!」
「み゙ゃっ!」

すこんっ、と軽く頭を叩いて、やっと子猫は大人しくなった。これを機に自分を飼い主としてみてくれれば良いのだけれど、と思わず呟く。
赤い線だらけの腕を見て、もう一度深く溜息をついた。これを見てもあの男は、元気が良いなと笑うだけなのだろう。
まったく、なんだか涙が出そうだ。

「あー、もういい。俺は寝る」

だから大人しくしてろよ。
なんだかモヤモヤしたものに支配されるのが気に食わなくて、きょとんと見上げるナガレに言い聞かせてから(傍から見れば、大変に滑稽なシーンだろう)、俺はごろん、とソファに横になった。
ナガレは意外にも大人しく、俺の腹の上でクルリと丸くなっただけだった(ちょっと重い)。




「何やってんだ」
「ニャァ」

可愛い顔して見上げるナガレの頭を撫でながら、ジンはソファでぐっすりと眠る愛弟子を見つめた。
すぅすぅと安らかな顔して眠る弟子の頬やら腕には、無数の赤い線が浮き出ている。どう見てもナガレに引っかかれて出来たのだろうそれは、蚯蚓腫れになっていて酷く目立った。

「ナガレ〜・・・」
「にゃ?」
「何してんだ、お前は」
「ニャッ!」

ぺんっ、と子猫のお尻を叩けば、酷く恨みがましげな顔で睨まれた。溜息をつきながら、それでもジンはグリグリとその頭を押す。

「食器壊そうが、マットレス破こうが気にしないけどな?」

目の前で眠る弟子が聞けば真っ赤になって怒るだろう言葉だが。それは掛け値なしの真実で、ジンは本当に気にしていない。
それでもな、とナガレをひょいと目線の高さまで上げて、ジンは言う。

「カイトだけは、ダメだって」

にー・・・、と殊勝な顔して鳴く子猫にやっと笑いかけて、魚でも喰うか?とジンはからりと笑った。
台所に消えた彼は本当に珍しく、ソファの上で耳まで真っ赤になった弟子には気づかなかった。

「なんかあったのか?」
「いえ、別に、特にはないんですけどね・・・」

だから、その日の夕食が妙に豪華な理由を、ジンは知らない。







<六花さんからコメント>
やっべぇ、激しくリクエストに沿ってないよ・・・。
・・・・も、申し訳ありません。なんて言うかすみません(土下座)。カイトさんが寂しがってたりとか、サッパリ出てません、ね!(ね!じゃないよ)
す、スイマセン。ダメだったら書き直させていただきます、はい(凹)。



リクに合ってない?? とんでもなぁーーいっ!!! つーか私、幸せ過ぎでヤバい; あんな意味不明なリクしといて、こんな素敵小説読めちゃうんですから‥!
ナガレちゃん(名前判明、やたーっ!)のヤンチャぶりやカイトさんの絶望ぶりw
軽快で細やか。しかもテンポが良くて、いつもいつも六花さんの小説にはウットリさせていただいてますが、はぁもぉいつにも増して極上です‥vvv

ナガレちゃん可愛いよ、大好きですよぅv カイトさんとの会話がびみょーに成り立ってるのか成り立ってないのか、それともナメられてんのか‥‥(ニヤニヤニヤ)
ジンのブッとい腕に抱かれるナガレちゃんにも相当萌えましたが、こちらも大っ変に鼻血です。猫とカイトさんという設定だけでもクラクラなのに、ナガレちゃんのキャラがヤンチャで可愛くて、叫びたいほど萌えるっ‥!
六花さんは猫飼われてるんだろか? 「フビャァ!」とか「み゙ゃっ!」とか鳴き方も、すっごいリアル。私は猫飼ってますが、怒られたり話しかけられたりしたら、ちゃんとこういう返事するんですよね。
そうか、水のイメージかぁ‥‥。想像力の無い私の頭にも、その繊細な美しさが鮮明に浮かぶよ。流れる水のような青い瞳。ジンはやっぱセンスいいなぁとv うん、やっぱジンはセンス良い。てか、ジンのセンスの良さはカイトさん拾った事からも明白ですよねv
んでもちろん、カイトさんの疲れぶり必死ぶりも負けず劣らず、か‥‥可愛い‥vvv
何歳くらいかな? えーとね、ジンとの生活にも大分慣れて、猫にヤキモチ焼いちゃう程度にはジンに胸キュン☆になりつつある16、7歳かなぁと‥‥vvv(←聞かれてないし; 相変わらず楽しそうですね;;)
てかさ、自分に爪を立てるナガレちゃんを、ジンは叱らないだろうと(勝手に)思ってフテ寝するカイトさん。何のかんの言ってジン大好き少年なカイトさん。
どんだけ可愛くなりゃ気が済みますかぇえ?カイトさんやvvv

でねでね!!(←すげぇ楽しそうだ;)
冒頭のジンの「良い子にしてろよー」ってのに、まずヤラれました。どっちに言ってるんだか分からないってのが異常にツボでしたv
六花さん宅のジン、カイトさんを完全子ども扱いなのに自らも子どもでやりたい放題。と思いきや、カイトさんを本気で大事にしてる大人ぶりの2面性が大好きなのです。そしてこの奔放ぶり。ぁあん、ジン、好きや‥‥!!(そして、「この家の住人に成り下がる」という表現にカイトさんのジンへの評価が滲み出ててクスリと笑わせていただきましたw) ジンの子供扱い発言萌えv
ナガレちゃんはさ、遊んで欲しいだけな気がするなぁ、カイトさんに。ジンは飼い主だけど、カイトさんは友達w ツヤツヤのキレイな毛並み(?)や青い瞳が似てるので同類と思ってたりしてv カイトさんは、たまったもんじゃないですねw
必死で掃除するカイトさん。目眩なカイトさん。ニッコリ黒い笑みなカイトさん‥vvv でもさ、ナガレちゃんに強いお仕置きとか出来ないんですよね。少し神経質なのに、やはりカイトさんの根底にはお人好しの血が流れているんでしょうか。あのジンの寒中水泳特訓wも、文句言いながらこなしてましたしvv

そして、ラスト。まったく‥‥‥、全くこの2人ときたら‥‥。
どうしてくれようこのイチャイチャっぷりっ!! ん、もぉ!私っ、大満足!!
カイトだけはダメですか、そうですか‥‥‥えへえへv(顔溶けまくってます;)
こういうの、ほんっと上手い! サラリですよ、サラリ! 言葉一つ、態度一つでサラリと丸分かり!ビシバシ来るっ!!
上手いなぁ‥‥シンプルでサラッとした表現で感覚に直接グッと来る。
六花さんの小説の(私が勝手に思っている)醍醐味がギッシリっすよ、ぅう、ジンカイブラボー!六花さんブラボー!!私(の図々しさ)GJ!!!っですよっ!

はぁー萌え散らかした‥。相も変わらず好き勝手叫ばせていただきましたが、これが私の大変に幸せな一時なものでスミマセン;;
>六花さま、萌え素敵小説、ありがとうございました!

(050227)

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