「頑張れカイト君」-02
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気配を感じて顔を上げると玄関先にカイトが見えた。
腑抜けたような表情でフラフラと庭先を歩いてくる。
続いてドアを開ける音がしたが一向にリビングにやって来ない。
「‥‥‥? カイト?」
「‥‥あ、はーい」
ジンがソファに腰掛けたまま呼ぶと返事が聞こえ、やっとカイトが姿を現すが
狐につままれたような顔でリビングの入り口に立ち尽くしている。
「お前、買い出しに行ったんじゃねぇのか」
「はい、そうですけど‥‥」
「買ったもんはどうしたんだよ?」
「は?‥‥あれっ!?」
空っぽの自分の両手を見てカイトが素っ頓狂な声を出す。
「おいおい、大丈夫かよ‥‥」
言いながら立ち上がり、カイトに近づくと頭、額と手を当てて
異常が無いかを慎重に調べた。
「すっ転んで頭を打った訳でもねぇか。
熱もないし‥‥疲れてんのか? 座って休め」
「‥‥別に疲れてなんてないですけど‥‥。
どうしたんだろう? 荷物、どこに置いてきたんだろう‥‥」
「買ったのは確かなのか?」
言いながら背中に手を添えて、カイトをソファに座らせる。
「はぁ、いつものスーパー行って金も払ってカゴから袋に詰めて‥‥
卵割れないように、一番上に‥‥そう‥‥卵‥‥‥壊れないように‥‥?」
眉を寄せて考えつつ話すカイトの表情が微妙になる。
「‥‥それからどっか寄ったか?」
「いえ、遅くなったから急いで‥‥近道しようかなって迷って‥‥。
あ、やっぱ近道したんだよな。ズボンも泥だらけだし」
「近道しようって決めたのは覚えてねぇのか?」
「ん?‥‥あれ?えーと‥‥‥」
「体に異常は無いんだな?痛むとこもないか?」
「はい 全然」
「そっか‥‥‥」
ジンは暫くカイトを見つめて考えていたが
「今悩んでも仕方ねぇか‥‥とにかくちょっと休んでろ」
「はい‥‥でも夕飯が困ったな。冷蔵庫、空っぽなんですが」
「どうとでもなるだろ、そんなもん」
そう言って窓の外を見ると、もう随分と薄暗い。
ジンは立ち上がって照明を点けると窓辺へ行き、カーテンに手をかけた時だった。
背後に気配を感じ、振り向く間もなく羽交い絞めにされる。
「おぉ? カイト、何だよ‥‥?」
返事は無い。捻られた肩が僅かに痛む。
振り払えないこともないがカイトは全力で拘束しているようだ。
戸惑う内にソファに投げ出された。
見上げるとカイトは顔を紅潮させて肩で息をしている。
何やら必死の物凄い形相だ。
「おい、大丈夫か?」
心配げに立ち上がろうとするのをカイトが押さえつける。
明らかに正常な状態ではない。
眠らせた方がいいか。
そう思った時だった。
カイトが口を開き、低く震える声で言った。
「お前を‥‥」
「‥‥‥‥?」
「お前を、犯ってやる」
「‥‥‥は?」
ジンが呆けた声を出した瞬間、自分が言った言葉に
カイトは戸惑いの表情を浮かべた。
考え込むように眉を寄せている。
「おいカイト!しっかりしろよー!」
声を張り上げるとキッとジンに向き直り、叫ぶ口を手で塞ぐ。
「うるさいっ!!黙ってろ!!
お‥‥俺がお前を犯るんだっ!!
犯るったら犯るんだっ‥‥!!」
形相も必死なら声も必死の体で叫ぶが、語尾が震えて
目は困り果てたように潤んでいる。
「フガフガ‥‥」
分かった分かった、という風にジンが目で合図を送る。
するとカイトはジンの口から手を離し、ジンのシャツの肩口を
握り締めるとペッタリとソファの傍らの床に座り込んだ。
どうしちゃったの、コイツ‥‥。
ジンは困った顔で頭を掻いた。
考えられるのは3つだ。
1、念で操作されている。
2、薬か催眠術で暗示にかかっている。
3、潜在的に俺を抱きたいという欲求を抱え続け、
修行の疲れで精神状態が不安定になりそれが一気に噴出した。
うーん、現実的には1か2だろうが、こいつに俺を襲わせて何が
どうなるもんでもねぇよなぁ‥‥。
オカマ掘られて俺が精神的ダメージを受けたところで一気に叩く作戦とか?
‥‥‥ありえねぇ。
じゃあ、3か。 まぁ色んな事に興味を持つ年頃ではあるが‥‥。
「お前、そんなにヤリてぇの?」
「え、うん‥‥」
カイトは覚束ない返事をする。
眉を寄せ上目遣いにジンを見上げ、その手はまだジンのシャツを固く握り締めたままだ。
「そっか、じゃあヤレよ。いいぞ?
いっつも俺がしてる事を、お前にはしちゃいけないってのもおかしな話だからな」
まずはちょっと様子を見るか。
問題は様子を見てる間、俺が何かと辛抱できるかってことだが‥‥。
思いながら黙って身を横たえているが中々その気配がない。
「何だよ、ヤラねぇのか?」
「‥‥‥」
カイトはしばらく固く唇を結んで恨めしげにジンを見つめていたが
やがて意を決したように立ち上がるとオズオズとジンに跨る。
厚く張ったジンの腰の上に細く華奢な体がちょこんと馬乗りになる。
腕を伸ばし両手の平をジンの胸に置くと、ジンにとっては羽根のように軽い
体重を全てそこに預けた。
これはもしかして‥‥『押し倒し』て、『組み敷いて』いるつもりなのか‥‥?
必死で堪えるが無表情を装う薄いツラの皮一枚の下で、頬の筋肉は今にも破顔しそうだ。
込み上げる可笑しさを押しとどめようと腹筋が震えるとカイトが眉を寄せた。
「震えてるの‥‥‥?」
「‥ふへ!?」
顔の筋肉の自由が利かず、意味不明の息がジンの口から漏れる。
「あの‥‥‥怖がらなくていいから。‥‥優しくするから‥‥‥」
限界だった。カイトに気づかれぬよう太腿に爪を立て、目を固く瞑って笑いを堪えた。
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