「DRUG STORE HUNTER×HUNTER」-01 ------------------------------------------------------------------------ 手の中を銀塩の写真がはらはらと巡る。 ジンの知らないカイトの笑顔がそこにある。 静かな夜。住み慣れた家。 ジンは座り慣れたソファで一人、カイトの面影を追う。 仲間とじゃれあい揉みくちゃにされた写真。 鍋の前に腰掛けてフテくされた表情。 集合写真の真ん中で微笑んでいるのは何か大きな発見をした記念だろうか。 帽子を目深に被ってはいるが口元に浮かぶ笑みは仲間達に囲まれた 充実した日々を伝える。面映い表情で次々と写真をめくっていたジンは 足音が近づくのに気づくと急に面白くもなさそうな顔を作った。 「全部帽子に顔が隠れちまってるじゃねぇかっ!」 「‥‥そうですか?」 夕食の片づけを終え、カイトがひょいとリビングに顔をだす。 「ああ、これもあれもどの写真もぜーーーんぶだ。 風呂入る時も帽子被ってたんじゃねぇの?ってくらい」 言いながら写真をテーブルに放り出し、ごろりと横たわる。 「そりゃだって、あの帽子はジンさんからもらった‥‥」 大切なものだったから。 皆まで言えず口をつぐんでカイトは向かいに腰掛ける。 「やった覚えはないけどな。気に入ってたってのに俺が忘れていったのを お前が勝手に持ってったんじゃねぇか。オマケに俺のハンター証は 落っことしてゴンに拾われてましただと? ったく俺を何だと思ってんだか‥‥」 カイトが困った顔で微笑むのに憎まれ口が過ぎたと思ったのかジンの 口調が改まる。 「お前、妙な事考えんなよな」 「‥‥妙なこと?」 「だから‥‥あんな帽子、またいつでもくれてやる。 閑だからって取りに戻ろうなんて考えんなよ」 カイトは笑顔を収め、今もその帽子が放置されているだろう場所を 思い起こした。異形による醜怪な建造物。忌まわしい死の記憶。 自分が自分じゃなくなって傀儡として操られた。 あの場所にもう一度戻る勇気が自分にあるのか。 しかしジンはそんなものは勇気じゃないと言う。 必要があれば行けばいいし、必要がなければ行くことはない。 くだらない肝試しに労力を費やすなとも言った。 その通りかもしれない。それに確かにあの帽子は惜しいが くれた本人が目の前にいるのだから、もうその役目は十分に 果たしたろう。 煩雑な思考を振りきり写真を手にとってカキン王国での日々を 思い返していると静かな寝息が聞こえ出す。 「ジンさん、上で寝てください。風邪ひきます」 「‥‥‥んー‥‥風呂、入る‥‥」 子供みたいに口舌のおぼつかないジンに思わず頬が綻んだ。 それに気づいたジンがぱっちりと目を開けて立ち上がる。 「お前、風呂は?」 「メシの前に済ませました」 「そっか。じゃあ先に上に行ってろ」 言い残し、さっさと浴室へ向かうのにカイトの眉がピクリと反応した。 「先に上に行ってろ、ね‥‥」 階段を登りながら独りごちる。 先に寝てろじゃなく、先に行ってろってとこが問題だよな‥‥。 家で二人で過ごす夜は例外なくと言っていいだろう。 ジンは疲れを知らずカイトを求める。 仕事中はさすがに自粛することも多いのでカイトにとっては 家で過ごす休日の方がかえって疲労するほどだ。 知り合ってもう10年以上経つってのに‥‥ 多少は飽きがきてもよさそうなもんだが。 しかしそんな考えがお為倒しであることはカイトも分かっている。 自分だってその度に身も心も蕩かして初めて受け入れるかのように熱くなる。 倦怠の気配など全く無いのだから、その時間の全てを共有するジンが 同じ気持ちでも責めることはできない。決して嫌なわけではないが 連夜の攻勢が続くとさすがに足腰が痛むし腹の調子も悪くなる。 毎晩は体に良くないと拒んでみたりもするのだが、ジンは 「愛し合ってるなら当然だ」などと臆面もなく言い放ち脱力したカイトは それ以上抵抗する気も失せてしまう。 だが今日は言うなりになる訳にはいかない。とうとうあれを使う時が来た。 今日こそはあれを使い己の意思を貫いてみせる。 なぜなら明日は年に一度の大切な 健康診断の日だNext                      (040516) ------------------------------------------------------------------------ →トップ