「Uninvited Guest」-04
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湯船に浸かったジンは深々と溜息をついた。
あいつ下着まで脱がせっかなぁ‥‥。
脱がしてたら、さすがにバレちまうよな。
けど下着は(そんなに)汚さなかったはずだから、大丈夫‥‥多分‥。
もう家も近いという森の中。ここまで来れば不穏な気配があれば気づかぬ
自分ではない。やっと安心して歩調を緩めた時だった。木の根元に
うずくまるように倒れた男を見つけた。
行き倒れか? 獣にでも襲われたか。
近づき、顔を上に向かせる。
‥‥綺麗な男だな。
ぼんやりと思った時、男の緩く結んだ唇が僅かに震え、それを捉えた
目の奥が痺れるのを感じた。
その先の記憶は余り無い。気が付けば静まり返った森の中に自らの荒い息が
響き、体は汗にまみれて欲望を叩きつけていた。燃え立つほどに体が熱い。
体の奥深くに眠っていた業の炎がゆらゆらとジンを炙る。狂ったように口付けると
ナイフのように鋭い刺激に体が貫かれ、それを堪えることもせずに性急に熱い塊を
吐き出した。息が落ち着くまで中に身を置いてゆっくりと引き抜くと男の長い睫に
浮いていた透明な雫が流れて頬を伝った。
それを指先で絡めとり、今更と思いながら全身を軽く弄る。
傍らに腰を降ろし無防備に投げ出された男の体をぼんやりと眺める。
苦しげな表情も見せずに男は眠る。先ほどの涙は感情のものではないだろう。
男に眉一つ寄せさせることも出来ない自分に苛立ちを覚えた。手を伸ばし
その髪を掴んで顔を仰け反らせる。目を閉じずに口付けると、そのまま再び
伸し掛かった。
爛れた時間がどれほど続いたか。今はもう思い出せない。
呆れる程に己を見失い、夢中になった。男の顔色が蒼白になり呼吸が薄く
なった頃、さすがにまずいと感じて身を離した。
一人になり平静を取り戻した今、そんな自分を少し不思議に思う。
確かに何事にも欲求に忠実に行動してはいる。しかし若い時分は
さて置いて、矩を踰え自分を保てない程かき乱されることなど無かったはずだ。
昨夜、焚きつけられて我慢したのが悪かったのか。
そうじゃなくても自分にしては珍しい禁欲生活が続いていた。
カイトと暮らすようになってもうすぐ2年が経つが、今回のようにカイトが
そばに居ない時は割と適当に遊んでいる。しかしカイトはジンが教えることを
砂が水を吸うように身に付けて、瞬く間に成長した。仕事の内容は雑用とは
いえ大掛かりなハントに連れて行っても気の利いた働きをみせ、ジンの
仲間にも重宝がられる。たまにカイトを置いていくと文句が出る程だ。
結果、カイトが自分からハントに同行したいとせがむ事はただの一度も
無かったが、結局はジンの意思でほとんど全ての仕事に同行し行動を
共にしていた。
別にいいんだがな。遊んでるとこをカイトに見られたって。
パシャリと水面を足先で蹴る。特に気にしているつもりはない。
まだ子供とはいえカイトも男なのだし、大人の男がたまの息抜きにハメを
はずしたって理解の範疇だろう。しかし何故だかジンはカイトを前に
開けっぴろげに夜遊びをする気になれず、遊ぶこと自体を面倒に感じていた。
何となく身を慎み、当然の結果として欲求不満であった。それが徹夜明けとも
なれば、疲れと共に体に籠もる熱をいつもよりも持て余す。
そんな時に‥‥。
いや、そんな時じゃなくたってあの男、何だってあんなトコに倒れてんだよ。
それがすでに犯罪だっつーの。
あんな人気の無い場所で、あんな無防備にあんな美人が‥。
どう考えても普通は犯るだろ。あの程度で済ませてやったんだ。
感謝されたっていいくらいだ。
ジンは目を瞑り、浴槽の淵に預ける。
悪くなかった‥‥‥いや、極上だった。
並みの男なら何もかも持っていかれちまってただろう。
長く側に置く男じゃない。だがせっかく連れてきたんだ。
出来ればもう一度‥‥今度はちゃんと意識が戻ってからがいい。
氏も素性も知らない男だ。そう簡単にはいかないだろうが
随分慣れてるみたいだったから何とか丸め込めるだろ。
無理くりってのは趣味じゃないし、俺は謙虚な男だからな。
もう一回だけ、今度は精々鳴かせて楽しませてもらえばそれでいい。
向こうは本意ではないだろうが、自覚もなくあんな場所にひっくり
返ってた男の自業自得というもんだ。それに始めてしまえば
楽しむのはお互い様だしな。
目を開き、天井を睨んで頬杖をつく。
‥‥だがカイトにバレるのはさすがにマズい。この手のコトはあいつには
まだ刺激が強すぎる。おまけにさっきのは正真正銘の性犯罪だからな。
バレたら洒落にならんだろ。どうにかカイトを家から出させて、その隙に‥‥。
やってしまったものは仕方ないし、楽しいことならもう一度したい。
らしくない程我を忘れたのは不覚だが行為自体には良心の呵責すら感じない。
腹が減っている時に神社の前を通ったら供え物がしてあった。しかもめったに
食えない虎屋の羊羹の一番高級なやつ。ちょっとあたりを見回して、一つ
つまみ喰いした。その程度の感覚だ。事が全て済んだ後、適当に後始末を
して服を直して躊躇う事なく担いで連れてきた。そのままにもしておけないし、
第一勿体無い。しかしカイトには事情を知られたくはない。
俺はあいつの師匠だからな。あいつの前では常に模範となる行動をしなけりゃな。
実際は色事に関して以外は決して模範的とはいえない行動が多々あったが‥‥。
しかしジンはその辺の矛盾については深く考えないことにして、大きな水音をたて
湯船から立ち上がった。
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