「G・I にて」-pierrot
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「で、どうだ?何か具現化したいモノは思いついたか?」
「はぁ、武器にしようかなって」
「武器‥‥まぁ治癒系なんかの能力じゃなきゃ、大抵武器だわな。
その武器を何にするかって聞いてんだが‥‥」
「あ、そうですね。いや、うん。武器は武器っていうかその、
普通に持つ武器です」
「‥‥はぁっ!?」
まだ自分の中でも考えが固まっていないので
なんと言って説明すればよいか分からない。
「えっと、だから‥‥」
ジンが焦れてくるのが分かる。そろそろ拳が飛んでくるだろう。
「銃とかナイフとか‥‥人間が普通に持つ武器です!」
「ふぅん‥‥」
「まだ具体的に1つ絞り込んではないんですが、刃物にしたいです!!」
語尾を言い切り、何とか瞬殺は間逃れたようだと安堵する。
「理由は?」
「えと、戦うために何か作り出すなら、やっぱり武器かなって‥‥。
俺は素手で戦うよりも得物を持った方が向いてる気がするし」
「‥‥それから?」
「‥‥それだけです」
「‥‥‥‥」
ここ数ヶ月、熱心に考えたが、それ以上の事が
思いつかなかったのだから仕方が無い。
しかしちょっと情け無い表情になったジンを見て
カイトは申し訳ない気持ちになった。
二人は今、グリードアイランドへ来ている。
発売されて3年が経ったゲームの部分修正の為、カイトは修行を
兼ねて課題にチャレンジしては、ジンに感想を報告していた。
今日も指示されたカードをゲットしてきたカイトの服は
ボロボロに破れ、顔も手足も擦り傷だらけ。おまけに
背中に大きな切り傷を作り、念を解けば血がダラダラと
流れるだろう。
そんなカイトを出迎えても、ジンはもはや驚きもせず
溜息をつきながら聞く。
「で、今日はどうだった?」
「はい。金粉少女の監禁されてる家のトラップですが
まず吊り天井が完全に落ちるまで1.8秒程かかるようです。
隣の部屋へ続くドアに鍵はかかって無いですから
多少瞬発力のあるものなら十分間に合います。
でも一応、逃げずに受け止めてみました。
8tくらいですか。片手で交互に支えながら、ドアに
行き着くことが出来ました」
「あぁ‥‥‥」
「次の廊下の落とし穴ですが、床の踏み心地で
空洞がある事は事前に分かりました。
でも一応、避けずに落ちてみました。
穴が浅くて底の竹槍までの距離が短いので、それを避けて
落ちるのは難しく‥‥」
「いや、分かった。もういい」
「はぁ」
「お前はよく頑張った。モニターとして十分過ぎる程
働いてくれた。お陰で必要な情報は集まったから
もう‥‥いいんだ」
「‥‥そうですか?」
「ああ、本当だ」
全くもって、律儀な奴だ‥‥。
やはりコイツをここへ連れてくるのが遅かったようだ。
普通にプレイヤーとしてゲームをさせれば
それ程時間はかからずに、あっさりクリアーするだろう。
いい加減、発を教えてやらないとな‥‥。
「で、どうだ?何か具現化したいモノは思いついたか?」
城のホールに置かれたソファに寛いでもたれかかると
ジンは軽い調子でそう聞いた。
これはグリードアイランドに来る数ヶ月前、水見式を行ったときから
考えておけと言ってあったことだ。
その問いに、カイトはモゴモゴと煮え切らない調子で答えた。
武器って、カイト‥‥。
いや別に、武器ってはいいんだけど‥‥。
でもせっかく念が具現化できるんだぜー?
もうちょっとこう、現実にはありえないような面白い設定でさ。
例えばムチとかだったら、ビュンビュン振り回して相手の防御を
切り裂いた後は、鮮やかな紅い紐に変わって捕縛する!
敵が強くて暴れるようなら、さらに緊縛の強い麻縄に変化する!とか‥‥。
まぁここまでの豊かな想像力をコイツに期待するのは無理ってもんだが。
どうもこいつは実直というか、素直というか、ひねりが無いというか、
実用性重視というか、極めてリアリストというか・・・。
アーティスティックで斬新な発想というのは苦手のようだ。
(すげー芸術オンチだし)
非常に分かりやすいし、育った環境の割にヒネくれた所がないのはいいが
悪く言えばクリエィティブで繊細な感性にイマイチ欠けてるというか
堅物の唐変木の朴念仁というか‥‥。
決して無神経でも鈍感というのでもない。
要領はいいし思考も柔軟で順応性も高い。
自分に要求されている事をいち早く理解し、手の抜きどころ、
抑えどころをすぐに把握して几帳面にソツなくこなす。
確かにちょっと融通の利かないトコはあるが、堅苦しい生真面目と
いうのでもない。男が持つべき意気地の強さの妥当な範囲内だ。
しかしそれはジンも含めた他人に対してであって
どうも自分の事に関しては若干鈍いところがある。
頭が良いから何手も先を読んではいるが、色々分かっている上で
行動の基本は、運任せの当たって砕けろだ。
その飄々と頓着しない様は、素朴な天然単細胞と呼べなくもない。
長い金髪に桜の唇、蒼く澄んだ目、白磁の肌。
外見は涼しげで凛々しく、そこらの女共よりよほど美しいのに
中身はどうにも硬派が過ぎる。
長く一緒に居たせいで、俺に似てきちまったのかな・・・ (←どこが?)
まぁ念の能力を決めるには、この拘りの無さが逆に良いかもしれない。
己の中に育てた闇を糧に、過ぎる力を手に入れ身を破滅させた連中を
ジンは大勢知っている。
だがカイトには、そんな危うさを全く感じない。
強く健康で、タフな精神力を持っている。
その健全な強さ。世の汚さを知った上で尚、保たれている清潔感が
俺を惹きつけて止まない訳だが‥‥。
あれこれ考えている間、カイトは黙ってジンの言葉を待っている。
師匠の反応に、気の利いた能力を考え出すことが出来なかったと
反省し、すまなそうにしている様子がジンには可笑しい。
「そういうことなら、無理に武器を1つに絞ることは無いぜ」
笑顔を隠すように俯いてジンが言う。
「え」
意外そうに顔を上げるカイト。
「それほど複雑な性質を持たない単純に強力な武器ってんなら
2つ3つ位なら具現化できる。
さらに基礎修行を積めば、それぞれの武器の威力は増すし
もっと種類を増やすことだってできる。
ちょっと強化系に近い考え方だがな」
複雑な性質を持たないといっても、必殺技を複数持つ。
未熟なものにはまず不可能だし、やれたとしても薄っぺらで
小手先だけの技になってしまうだろう。
それぞれに相応の威力と精度を持たせるには相当な実力が必要だが
お前が思っているより、お前は強くなっているからな。
付け加えた言葉は、心の中だけでそっと呟く。
「‥‥そうですか」
意外そうな顔ではあったが、この世で一番信頼する者の言葉を
素直に受け入れている。
こいつなら、あの説明をしてやっても大丈夫だろう。
決して強さのみを求める修羅の道に足を踏み入れ
自分を見失ったりはしない奴だ。
「カイト。念の能力をより高める為の2つのキーワードを知ってるか?」
「‥‥いいえ」
「制約と誓約。能力に何かしらの条件、リスクを付けることによって
技の威力が飛躍的に高まる。しかしそのルールを破れば、それなりの
制裁が待っているから危険が伴うがな。だから自分の覚悟で守れる範囲の
ルールじゃないとダメだ。‥‥わかるか?」
「はい‥‥じゃあ、俺‥‥」
「うん‥‥?」
能力自体を決めるのには時間がかかっているようだが
こちらの方は随分早い。まぁ直感が重要なことではあるが。
「複数の武器が具現化出来ても、一度に持てるのは1つだけ。
その種類も‥‥ランダムに出現して自分では選べないようにしたいです」
「ほぅ‥‥そりゃまた、どうして」
「うーん、何となく、だけど‥‥。
どんな武器にしようってずっと考えてたけど
あんまり楽しいことじゃなかったから」
「‥‥‥‥」
複数の武器を具現化できる最大の利点の1つは
状況に合わせて武器を瞬時に持ち替えられること。
それを捨てるという制約は、能力を飛躍的に向上させるだろうが
せっかくの利点を無いものにしてしまっては‥‥。
しかし何故だか、分かるような気がした。
コイツは殺しも、傷つけることも好まない。
好まないからといって必要な時に躊躇したりはしないが
それは嫌悪と罪悪感を表に出さないだけの強さがあるだけの話だ。
迷いの無い冷徹な心と、己を諌める贖罪の心。
この相反する二つの要素は、強い肉体を持つハンターにこそ
必要なものだが、教えなくてもカイトはそれをすでに身に付けている。
手にした武器のその先には、敵の死がある。
殺しの為の道具を選ぶのが苦痛なのだろうが、それが甘えであることも
こいつは知っている。
だから選択を肩代わりさせる者を運にして、あえてリスクを
負いたいのかもしれない。
どの武器が出るかわからない状況で
念を発動させる度にコイツは自分自身に問うだろう。
本当にこの殺しは正当なのか。
いや、この世に正当な殺しなど有りはしないのだ、と。
お前にとって、武器を選べないのはリスクというより
迷わず敵を殺る為の、免罪符なのかもしれないな‥‥。
「そうか。悪くないな」
そう言うと、ジンはカイトの腕をポンと叩いて微笑んだ。
その笑顔はちょっとだけ悲しげで、カイトは少しの間不思議そうに
その顔を眺めた。
end.
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