「続・約束」-番外編
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ジンを敵と認めたカイトが向き直り、何の躊躇もなく一瞬
揺らいだかと思うと、すでに姿が消えていた。
ゴンとキルアが息を呑む間もなく、ジンの上体がわずかに傾ぐ。
と、そのすぐ傍らに、刀を振り下ろしたカイトの残像。
一太刀、二太刀。
ジンは相手の力量を見極めるように、その場から動かず
上体の移動だけで攻撃を避わす。
カイトのスピードが一気に増す。
刀の突っ先がジンの左肩を狙い、千切れた衣服が宙に舞う。
刹那、ジンの左手はカイトの右手首をしっかりと掴まえ
右手は心臓を貫いていた。
ゆっくりと崩れ落ちるカイトの体を、ジンがすかさず受け止める。
ゴンとキルアは、しばらく凍りついたように立ちすくんだが
ジンがそっとカイトの体を抱きかかえ、立ち去ろうとするのを見て
駆け寄った。
「ジン、カイトは・・・カイトを、どうして・・・!」
ゴンが叫ぶように言う。
「カイト・・・・俺たちの・・・俺の、せいで・・・」
青ざめた顔で呆然と呟くキルアにジンが言う。
「別にお前らのせいじゃないだろ。
全てカイトの判断だった。自惚れんな。
それにこいつはもう、大分前に死んでいた。
操作してる奴を殺しても、死んだ奴は元には戻らない」
そう言い捨てると二人に背中を向けたが、ふと思いついたように
立ち止まる。
「ああ、ゴン。勘違いすんなよ。
今回は俺が勝手に姿を現しただけで、お前が見つけだした訳じゃない。
まだお前は、何も成し遂げちゃいない。・・・・わかるよな?」
相変わらず背を向けたまま、ゴンを見ようとはしない。
その時、大きな気配が一つ、巣から消え去った。
「・・・・どうやらジーサン達が、一番デカい蟻を殺ったようだぜ。
お前らも手伝いに行くんだろ? 行くなら、早く行け。
その後、まだ俺と鬼ごっこをする気があるんなら、ちゃんと百数えてから
追ってこいよ」
ゴンがしっかりと頷づくの待たず、ジンの背中は出口へと向かって
消えて行った。
ジンは、カイトの体を大切に運んだ。
かつて二人で住んだ家に帰り着く。
中は少し埃っぽい以外、何もかもが昔のままだ。
ソファにカイトをそっと横たえる。
最後にカイトが洗って仕舞ったままのグラスを取り出し
強い酒を注いで向かいのソファに腰掛ける。
一口、酒を口に含むと静かにカイトに語りかける。
「なぁ、帰ってきたぜ。・・・わかるか?」
カイトは何も答えない。
「お前とここで、酒盛りしたよな・・・。
初めてお前の頭をはり倒したのも、ここだった。
その時のお前の、ムクれた顔ときたら・・・」
笑ったつもりだったが、上手くいかなかった。
グラスの酒を飲み干すと、再びカイトを抱きかかえ
ベランダから森へ出る。
「あー、いい天気だ。秋晴れだな。
風がちっと冷たいが、我慢してくれ」
ゆっくり、ゆっくり、惜しむように歩を進める。
そして木立ちが途切れ、ぽっかりと空いた高台で足を止める。
「変わんねーな・・・。
お前はここが気に入りで、一人の時はいつもここで修行してた。
この場所からは俺たちの家も見える。悪くないだろ?」
陽当たりの良い場所を選ぶ。
少し手が震えたが、その手を休めることなくカイトを埋める。
そして修行の合間、二人で腰掛けて休んだ石を据えると
その前にあぐらをかいて座り込んだ。
「ちょっと疲れたな・・・。
俺も寿命が来るまで、お前とこの穴ん中で眠っていたいぜ。
だが、そうもいかない事情もある。ちょっとの間
寂しくさせるが、堪えてくれ」
体を回して家の方を振り返る。
「俺が一人で出かけると、お前はいっつもあの家で俺を待ってた。
だから俺も、必ずあの家に帰ったよ。
あっちの時間なんざ、こっちに比べりゃあっという間だ。
前より、待たせないかもしれねぇな。
必ずお前の居るとこに帰る。
だからしばらく、また大人しく留守番してろ」
そういい終えた時、まるでそのつぶやきに答えるように
一陣の風がジンの鼻先をかすめ、森が大きくざわめいた。
「相変わらず、律儀な男だぜ・・・。
その律儀な男が、俺との約束を反古にして守った二人の命だ。
お前に悔いは、なかったんだろ。」
しばらく木々を渡る風を目で追っていたが、やがてそれが収まると
ジンは突っ伏し、声を上げて泣いた。
end.
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