「出会い」-01
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まさか、アイツが銃を持っていたとはな・・・。
しかし今にして思えばそれも当然か。
弱い奴ほど飛び道具を持ちたがる。
油断していたわけじゃない。だから、仕方が無い。
油断した結果がこれなら悔やみもするが、
自分の経験値が低かったというなら諦めがつく。
ねぐらへ戻ると、そこは3人の浮浪者たちに占拠されていた。
俺が姿を見せると一瞬ギョッとした表情を浮かべ、その後は
三者三様の表情を見せた。この廃屋に俺が寝泊りしている痕跡は
確認したはずだから、いずれ戻ってきた奴とこの場所を争わなければ
ならないことは解っていたのだろう。
その相手がひょろりと痩せて薄汚いガキだとわかり安心の表情を浮かべるもの。
ガキと解っても、警戒を怠らないもの。
(多分こいつが1番このスラムに住んで長いのだろう)
顔を背け、これから子供相手に繰り広げられるだろう暴行に
脅えの色を隠せないもの。
俺は俺で、どう対処するかを考える。
ちょっと迷ったけれど、新しいねぐらを探すのは骨が折れるし
相手の中で使えそうなのは1人だけ。勝算は十分だった。
挨拶にでも行くような足取りで1番やっかいそうな男に近づくと、
何も言わずに顔面に一発ブチ込んだ。あっけなく床に沈んでいく。
残りの2人が後ずさりする。
「失せろ」
まぁ、一応言ってみる。
これでおとなしく出て行ってくれれば楽なんだが。
実際、左側の薄い猫毛の男は、汗をびっしょりかいて半泣きだ。
見るからに気の弱そうな男。奴が1人だったら、俺がねぐらに戻った
時点で逃げ出していたかもしれない。
右側にいるスキンヘッドの方は、そう簡単にここを諦める気はないらしい。
奴の右手が、不自然に腰の後ろへと回り、その辺りで金属質の何かが
きらりと光った。・・・ナイフか。面倒な方から片付けよう。
持てるスピードの全てを使って敵の間合いに入る。
案の定、奴の右手にはナイフが握られていたが、それを左手でねじ上げて
すかさずわき腹に右フックを入れる・・・・はずだった。
轟音が響いたかと思うと、左の腰に焼け付くような痛みを感じた。
ゆっくり振り向くと、顔面に汗と涙をしたたらせて歯をくいしばった男が
銃を両手で構えている。銃口から立ち上る煙を見て、こいつに撃たれんだと
気がついた。
ぽかんと口を開けて、さぞかし間抜けな顔をしていただろう。
俺を撃った男は、悲鳴をあげながら飛び出していった。
ナイフの男も、ねじ上げた拍子に折れた右手を押さえて、悪態をつきながら
走り去る。俺はその場に立ちすくんだ。そしてゆっくり、出口に向かって
歩き出した。思ったよりも銃で撃たれると痛いものだな。切り傷や刺し傷の
痛みと全く違う。どんどん頭から血が抜けていく感じがして、それに反比例して
痛みは小さくなっていったが、今度はかわりに吐き気を催してきた。
倒れてしまえば楽だと思ったが、ねぐらの取り合いのケンカで負けて
その部屋の中で死ぬというのは、いかにもその場所に執着があるようで
何だか ひどく格好が悪い。
何とか外で、くたばろう。道端に死体が転がってるなんて日常茶飯事だ。
その中の一体になって、誰にも同情も詮索もされない死体になろう。
目はもうほとんど見えないが、ちょっと視界がまぶしくなった。
俺は、外に、出たのか・・・・?
もう、死んでもいいのか・・・・・・?
最期の力で右手を宙に彷徨わせると、どうやら出入り口らしい壁の
端面に触れた気がした。そのまま前のめりに倒れると、頬には確かに土の感触。
光を感じる程度に見えていた瞳が完全にブラックアウトした時
少年はほんの少し、笑っていた。
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